RAGとは?仕組みやメリット、活用法、作り方を分かりやすく解説

 
 

この記事でわかること

  • RAGの基本的な仕組みと目的
  • 従来の生成AIとの重要な違いとメリット
  • RAGシステムの2段階の動作プロセス
  • 具体的な業務活用シーンと価値
  • 導入時の重要な注意点と対策
谷田 朋貴

監修者プロフィール

谷田 朋貴

一橋大学卒業後、伊藤忠丸紅鉄鋼株式会社、Web専業広告代理店を経て、株式会社電通デジタルに入社。国内大手クライアントに対して、デジタル全体のプロモーション施策の戦略立案・実行に従事。また、生成AIを活用した自社業務の効率化にも取り組む。2023年12月、生成AIを活用した業務効率化支援を行う株式会社アドカルを創業。

生成AIの業務活用が進む中、その精度と信頼性の向上が大きな課題となっています。RAG(検索拡張生成)は、この課題を解決する革新的な技術として注目を集めており、多くの企業で導入が始まっています。本記事では、RAGの基本的な仕組みから具体的な活用方法、さらには導入時の注意点まで、実務担当者の視点に立って詳しく解説します。生成AIを本格的に業務活用したい方、より高度なAIシステムの構築を目指す方に、必要な知識とノウハウを提供します。

RAG(検索拡張生成)とは

生成AIの活用において、正確性と信頼性の確保は大きな課題となっています。RAGはこの課題を解決する画期的な技術として注目を集めており、企業での実践的な活用が進んでいます。ここではRAGの基本的な概念から、なぜこの技術が必要とされているのかまで、詳しく解説します。

RAGの概要

RAG(Retrieval Augmented Generation:検索拡張生成)は、生成AIの能力を外部知識で補強する革新的な技術アーキテクチャです。この技術は、生成AIの基本的な言語理解能力と、外部データベースからの正確な情報検索を組み合わせることで、より信頼性の高い回答を生成することを可能にします。

従来の生成AI単体では、学習済みの情報のみに基づいて回答を生成するため、最新情報や組織固有の情報を扱うことが困難でした。RAGはこの限界を克服し、必要な情報をリアルタイムに参照しながら回答を生成できる新しいアプローチを提供します。

RAGが必要な理由

RAGが必要とされる背景には、従来の生成AIが抱える本質的な課題があります。生成AIは事前学習した情報に基づいて回答を生成するため、学習データの範囲外の情報や、最新の情報を正確に扱うことができません。特に企業での活用を考えた場合、社内規定や業務マニュアルなど、非公開情報への対応が不可欠です。

また、生成AIには「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる、事実に基づかない情報を生成してしまう問題があります。これは企業での実務利用において重大なリスクとなり得ます。RAGは外部データベースから検証可能な情報を参照することで、この問題に対する有効な解決策を提供します。

ファインチューニングとの違い

生成AIに新しい知識を追加する方法として、RAGとファインチューニングという2つのアプローチがあります。ファインチューニングは、生成AIモデル自体に新しい情報を学習させる方法です。これに対してRAGは、AIモデル自体は変更せず、外部のデータベースを参照する仕組みを構築します。

比較項目RAGファインチューニング
アプローチ外部データベースを参照する仕組みを構築AIモデル自体に新しい情報を学習させる
モデルの変更モデル自体は変更しないモデルを直接変更する
人間の学習例必要な時に資料を参照新しい知識を記憶して身につける
情報更新の柔軟性データベース更新のみで対応可能モデルの再学習が必要
導入・運用コスト比較的低コスト大規模な再学習が必要で高コスト

人間の学習プロセスに例えると、ファインチューニングは新しい知識を記憶して身につけることに相当し、RAGは必要な時に資料を参照できる環境を整えることに相当します。RAGの特徴は、データベースの更新だけで新しい情報に対応できる柔軟性と、大規模なモデル再学習が不要なため導入・運用コストが比較的低いという点にあります。

RAGの仕組みを分かりやすく解説


RAGは一見複雑に見える技術ですが、基本的な仕組みは「検索」と「生成」という2つの要素で構成されています。ここでは、それぞれのプロセスと、実際にどのように情報が処理されているのかを、具体例を交えながら解説していきます。

検索フェーズ

RAGの検索フェーズでは、ユーザーからの質問や指示(プロンプト)を受け取り、それに関連する情報を外部データベースから効率的に検索します。このプロセスは、通常のキーワード検索よりも高度で、質問の文脈や意図を理解した上で関連情報を抽出します。

例えば、「新入社員の研修制度について教えて」という質問に対して、単純なキーワードマッチングだけでなく、「研修」「教育」「人材育成」など、関連する概念も含めて包括的な検索を行います。これにより、質問の意図に沿った適切な情報を見つけ出すことができます。

生成フェーズ

生成フェーズでは、検索フェーズで取得した情報を基に、生成AIが回答を作成します。このプロセスでは、単に情報を羅列するのではなく、検索結果を理解し、整理された形で回答を組み立てます。

例えば、複数の文書から得られた情報を統合し、矛盾のない一貫した説明を生成したり、ユーザーの質問レベルに合わせて専門用語を適切に言い換えたりします。また、必要に応じて補足説明を加えることで、より分かりやすい回答を作成します。

ベクトル検索とキーワード検索の使い分け

RAGシステムでは、ベクトル検索とキーワード検索という2つの検索方式を状況に応じて使い分けます。ベクトル検索は、テキストの意味を数値化(ベクトル化)して類似性を判断する方式で、文脈を考慮した柔軟な検索が可能です。

一方、キーワード検索は、特定の単語や語句の完全一致を見つけ出す方式です。例えば、製品コードや規格番号など、正確な一致が必要な情報を探す場合に有効です。RAGシステムでは、これらの検索方式を組み合わせることで、高精度な情報検索を実現しています。

最新のRAGシステムでは、これらの検索方式を自動的に使い分け、質問の特性に応じて最適な検索方法を選択することで、より正確で関連性の高い情報を取得できるようになっています。

RAG活用で得られる4つの革新的なメリット

RAGの導入は、企業のAI活用戦略に大きな変革をもたらします。従来の生成AIの限界を超え、より実践的で信頼性の高いAIシステムの構築を可能にします。以下では、RAG活用によって得られる具体的なメリットについて詳しく解説します。

生成結果の信頼性と確実性の向上

RAGシステムの最大の特徴は、外部データベースから検証可能な情報を参照しながら回答を生成できる点です。これにより、生成AIが陥りやすい「ハルシネーション(幻覚)」の問題を大幅に軽減できます。データベースに登録された正確な情報のみを基に回答を生成するため、誤った情報や事実と異なる内容が提示されるリスクが低減します。

特に企業での利用において、この信頼性の向上は極めて重要です。社内規定や製品仕様など、正確さが求められる情報の取り扱いにおいて、RAGは高い精度を維持することができます。

外部情報の柔軟な更新が可能になる

RAGでは、データベースの内容を随時更新することで、生成AIが参照する情報を最新の状態に保つことができます。これは、従来の生成AIが抱えていた「学習データの古さ」という課題を効果的に解決します。

例えば、製品情報や価格の変更、新しい社内ポリシーの追加など、ビジネス環境の変化に応じて即座に情報を更新できます。この柔軟性により、常に最新かつ正確な情報に基づいた回答の生成が可能となります。

費用対効果が高まる

RAGの導入は、従来のAIシステムと比較して優れた費用対効果を提供します。ファインチューニングのように大規模なモデル再学習が不要なため、導入・運用コストを抑えることができます。また、既存の文書やナレッジベースをそのまま活用できるため、新たにデータを作成する手間も最小限に抑えられます。

さらに、問い合わせ対応の自動化や情報検索の効率化により、業務コストの削減にも貢献します。人的リソースを付加価値の高い業務に振り向けることが可能となり、組織全体の生産性向上につながります。

パーソナライズされた回答の生成が可能

RAGを活用することで、ユーザーの属性や状況に応じてカスタマイズされた回答を生成することができます。例えば、社内での利用であれば、部署ごとの規定や手順書を参照し、それぞれの業務に即した情報を提供できます。

また、顧客対応においても、過去の対応履歴や顧客属性に基づいて、より適切な回答を生成することが可能です。このパーソナライズ機能により、ユーザー満足度の向上と業務効率の改善を同時に実現できます。

RAGシステムの具体的な作り方


RAGシステムの構築は、適切な計画と準備があれば、必ずしも高度な技術力を必要としません。むしろ、業務ニーズの明確な理解と、システム要件の適切な設計が成功の鍵となります。ここでは、実際のRAGシステム構築に必要な要素と手順について、実践的な観点から解説します。

必要なコンポーネントと準備物

RAGシステムを構築するためには、いくつかの重要なコンポーネントを適切に組み合わせる必要があります。基本となるのは、生成AIモデル、データベース、そして検索エンジンです。これらのコンポーネントは、それぞれが異なる役割を担いながら、一つの統合されたシステムとして機能します。

生成AIモデルとしては、OpenAIのGPTシリーズやAnthropicのClaudeなど、既存の言語モデルを活用することができます。データベースについては、組織の規模や用途に応じて、適切なものを選択します。また、効率的な検索を実現するために、ベクトルデータベースの導入も検討する必要があります。

主要なコンポーネント構成は下記があげられます。

・ベースとなる生成AI基盤
・情報格納用データベース
・検索エンジン(ベクトル検索対応)
・APIインターフェース
・ユーザーインターフェース

外部データベースの構築手順

外部データベースの構築は、RAGシステムの性能を左右する重要なプロセスです。まず、既存の社内文書や知識ベースを収集し、デジタル化します。これらの文書は、検索しやすい形式に変換し、適切にインデックス化する必要があります。

データの前処理も重要なステップとなります。文書のクリーニング、フォーマットの統一化、メタデータの付与などを行うことで、より効率的な検索が可能になります。また、定期的なデータ更新の仕組みも考慮に入れる必要があります。

データベース構築において特に重要となるのは、情報の粒度とカテゴリ分類です。情報を適切な大きさに分割し、関連性のある情報同士を効果的にリンクさせることで、より正確な検索結果を得ることができます。

LLMとの連携方法

生成AIモデル(LLM)との連携は、RAGシステムの中核を成す部分です。この連携には、適切なプロンプトエンジニアリングと、効率的なAPI連携の設計が必要です。まず、LLMに対して適切な指示を与えるためのプロンプトテンプレートを設計します。このテンプレートには、検索結果の使用方法や回答フォーマットなどの指示を含めます。

API連携においては、レスポンス速度とコストのバランスを考慮する必要があります。大量のリクエストを効率的に処理できるよう、適切なキャッシング戦略やレート制限の設定も重要です。また、エラーハンドリングやフォールバック機能の実装も、システムの安定性を確保する上で欠かせません。

セキュリティ面では、APIキーの管理や通信の暗号化など、基本的なセキュリティ対策に加えて、組織固有の要件に応じた追加の保護措置を講じる必要があります。

LLM連携の重要ポイントは下記があげられます。

・適切なプロンプトテンプレートの設計
・効率的なAPI呼び出し設計
・セキュリティ対策の実装
・エラーハンドリング機能の実装
・パフォーマンスモニタリング体制の構築

RAGを導入する際の重要な注意点

RAGシステムは強力な機能を提供する一方で、その効果を最大限に引き出すためには、いくつかの重要な課題に適切に対応する必要があります。ここでは、導入時に特に注意すべきポイントと、その対策について詳しく解説します。

外部情報の品質管理と更新体制が必須

RAGシステムの性能は、参照する外部情報の質に大きく依存します。したがって、データベースに登録する情報の品質管理は極めて重要です。古い情報や誤った情報が混入すると、生成される回答の信頼性が低下してしまいます。

情報の鮮度を保つためには、定期的な更新プロセスの確立が不可欠です。更新の頻度や範囲、責任者の明確化など、体系的な管理体制を整備する必要があります。特に、複数の部署や担当者が関わる場合は、更新フローを明確に定義し、漏れのない運用を心がけることが重要です。

情報品質管理のポイントは下記があげられます。

・定期的な情報の見直しと更新
・更新プロセスの明確化と責任者の設定
・情報の正確性検証の仕組み構築
・バージョン管理の徹底

セキュリティとプライバシーの確保

企業内の機密情報や個人情報を扱う場合、セキュリティとプライバシーの確保は最重要課題となります。RAGシステムでは、外部データベースに保存される情報の保護と、APIを介したデータのやり取りの両面でセキュリティ対策が必要です。

アクセス制御の実装では、ユーザーの権限レベルに応じて参照できる情報を適切に制限する必要があります。また、データの暗号化やログ管理など、基本的なセキュリティ対策も欠かせません。これらの対策は、組織のセキュリティポリシーに準拠する形で実装する必要があります。

出力内容は外部情報に依存する

RAGシステムの出力品質は、登録された外部情報の範囲と質に大きく依存します。データベースに存在しない情報については、適切な回答を生成することができません。したがって、想定される質問や用途に応じて、必要十分な情報をデータベースに用意しておく必要があります。

また、情報の構造化や分類も重要です。単に情報を蓄積するだけでなく、効率的な検索と適切な回答生成を可能にするため、情報同士の関連性を考慮した整理が必要です。これには、メタデータの付与やカテゴリ分類など、体系的なアプローチが求められます。

システム運用上の重要事項は下記があげられます。

・定期的なパフォーマンス評価
・ユーザーフィードバックの収集と分析
・システムの改善サイクルの確立
・コスト管理と最適化

RAG(検索拡張生成)は、生成AIの可能性を大きく広げる革新的な技術として、企業のデジタルトランスフォーメーションに新たな可能性をもたらしています。本記事で解説してきたように、RAGは従来の生成AIが抱えていた制限を効果的に克服し、より実用的なAIシステムの構築を可能にします。特に企業での実務活用において、その価値は極めて高いものとなっています。

RAGの導入により、組織は最新かつ正確な情報に基づいた回答生成が可能となり、業務効率の向上とコスト削減を同時に実現できます。社内ナレッジの効果的な活用や、高度な顧客サポートの実現など、様々な場面での活用が期待できます。さらに、組織固有の情報を安全に活用できることで、より付加価値の高いAIサービスの提供が可能となります。

ただし、RAGシステムの導入と運用には、適切な計画と体制の整備が不可欠です。情報の品質管理、セキュリティの確保、定期的な更新など、継続的な取り組みが必要となります。これらの課題に適切に対応することで、はじめてRAGの真価を発揮することができます。組織内での役割分担や責任の明確化、更新プロセスの確立など、運用面での準備も重要な成功要因となります。

今後、RAGはさらなる進化を遂げ、より高度な活用が可能になると予想されます。技術の発展に伴い、より効率的な情報検索や、より自然な対話が実現されていくでしょう。また、組織のデジタル化が進むことで、活用できる情報も増加していきます。このような環境の変化を捉え、RAGを戦略的に導入することで、組織の競争力を大きく強化することができます。


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